*PART1.陣痛~入院*
「あっ…」

出産予定日を4日過ぎた日の夜、少し遅めの夕飯の支度に取り掛かっている最中に
下腹部がきゅっと収縮するような痛み、軽い生理痛のようなものを感じた。





この日は日曜日。
幸い、妊娠中からウィークデーは名古屋に単身赴任している夫が在宅中だ。
夫が居ない時、日中ならまだしも、深夜ひとりの時に陣痛が起こってしまったら…
家族一同(夫やわたしの親も含め)そのことを不安に思っていたけれど、今なら大丈夫。
先にも述べた通り、予定日は既に4日過ぎている。
早く「そのとき」が来ればいい。出産に対する不安は勿論あるけれど、
今はただ、早く赤ちゃんに会いたい。
大きなおなかも苦しさ限界、一時も早く楽になりたい。

キッチンの壁に備え付けられているデジタル時計と、
対面式キッチンのカウンターからテレビを観ている夫の様子を交互に見る。
初産婦である故、陣痛の痛みははじめてだ。これが本当に「それ」なのか…自信がない。
痛みはまだまだ弱く、痛みと痛みの間隔も10分以上ある。
夫に知らせるべきか否か…予定日を4日過ぎた今、糠喜びはさせたくない。

包丁で野菜を刻みながらも、意識は下腹部と時計に向けられている。
痛みは相変わらず弱いまま、間隔は10分以上あるけれど、その間隔は規則正しい。
所謂、前駆陣痛なのであろうか?

10分間隔の規則的な痛みが1時間続いたら、病院に連絡することになっている。
その間に荷物のチェックやシャワー、可能であれば食事を済ませ、
更に可能であるならば、小さいおにぎりを作る。
お産は体力勝負。腹が減っては戦は出来ないのだ。

食事の準備が整い、テーブルへ運ぶ。

「いただきます」の言葉の後、黙っていられなくなり、夫に告げる。
「あのね…違うかもしれないんだけど、陣痛かもしれない」

夫はいつの時も冷静沈着な人間だ。
その時も時間の間隔や、痛みの強さ(我慢出来るか?)などを冷静に尋ねてきた。
わたしもこの時だけは(普段はあたふたしてしまいがち)妙に冷静であった。
時計を見ながらも、しっかりと冷静に食事を取った。
そう、お産は体力勝負なのだから。

時刻は21時頃。

食事の片付けを夫に頼み、病院へ持っていく荷物の最終チェックをする。
出産予定日の1週間前から殆ど毎日行っている荷物チェック。
どうかこれが最後のチェックとなりますように。

その後、バスタブにお湯を溜め、時計を見ながらも、ゆったりバスタイム。
暫くはバスタブにのんびり入ることは出来ない。
(お産の後、1ヶ月検診でOKが出るまではシャワーのみ)
大好きなクナイプのバスソルトを使ってリラックス。
お湯に浸かりながら、お産のイメージトレーニングをする。
ラマーズ法で産む予定のわたしは「ひっ、ひっ、ふー」だ。
赤ちゃんがもし降りてこられなかったら、緊急帝王切開になるけれど、
(この件については後で述べます)
その時はその時だ。
赤ちゃんは必ず、わたしがこの腕に抱く。
しかもそれはそう遠いことではない。

やるべきことは全てやってしまった。時刻は24時頃。

相変わらず、陣痛の間隔は10分だったり、15分だったり、
規則正しくもなければ、短くもなっていない。
これはやはり前駆陣痛なのであろう。
それでも、読書をしながら、陣痛の間隔を知る為に時間を記録する。
眠気は全く無い。頭も目も妙にすっきりしている。
そしてそのまま、一睡もすることもなく、月曜日の朝を迎えた。

さて、どうするべきか。

夫は名古屋には戻らず、東京の勤務先に出勤するという。有り難い。
わたしがお産入院をする病院は車での送迎があるので、
ひとりの時に本物の陣痛が始まっても、問題はない。
それでも、ひとりで家に居るのは心細い。
悩んだ末、一応病院に電話をしてみることにした。
状況、陣痛の間隔を述べると、やはりまだまだ…とのこと。
不安そうなわたしの声の感じを気の毒に思ってくれたのか、
「不安だったら、診察の後、入院することは可能ですよ」と言ってくれた。

これ幸い、早速に迎えの車を頼み、病院へ向かうことにした。
病院へ行くことがこれほどに嬉しかったのは生まれて初めてだ。
準備していたバッグとミネラルウォーターなどを入れたナイロンバッグ、
計4個の荷物と一緒に送迎の車に乗る。戦いに挑む思いと一緒に。
勿論、赤ちゃんに会えるという高揚する気持ちも一緒に。

その後…そう珍しい話ではないとは聞いていたけれど、
病院に着いたら、正確には病院へ向かう車の中で、陣痛は遠のいてしまった。
意識を集中してみても、家に居る時に感じていた鈍く重いような痛みは感じられない。
診察の結果、子宮口の開きは3cmほど。10cmの全開までは程遠い。

取り敢えず、持参したパジャマに着替え、陣痛室に入る。
陣痛室…すごいネーミングだ。
その名の通り、分娩前の陣痛時に入る部屋である。

・後にここで一晩、一睡もせず朝を迎えることになるわけですが…
そこは正に陣痛室(陣痛を思いっきり味わった)でした。
入院中、一番思い出に残ったお部屋です。

おなかに分娩監視装置を付け、陣痛の状態を調べてみるも、本陣痛ではないとのこと。
少々落ち込んだ気持ちを励ましてくれたのは、いつもと変わらない激しい胎動。
ボコボコボコ!あぁ、早く会いたい。

この時、何かがどろっと流れる感覚があった。
下着を見たら、とろりとした鮮血がついていた。(ナプキン有り)
数ヶ月ぶりに見た血に驚き、助産師さんに尋ねる。
「あの、出血したんですけど」とわたし。
「出血しますよ」と助産師さん。(あっさり)
なるほど。妊娠中、出血には神経質になっていたので、一瞬驚いてしまった。
所謂、「おしるし」なのかな。お産はそう遠くないということなのか。

陣痛が遠のくと帰宅をさせられる…と聞いていたので少々不安に思っていたが、
意外とあっさり、そのまま入院をさせてもらえることになった。
痛みは強くなってきているけれど、規則正しい陣痛がつかない。
相変わらず、10分であったり、15分、時々は7~8分であったりとまばら。
担当の助産師さんに聞いてみたら、「まだまだ掛かる」と言われてしまった。
入院の手続きを済ませてくれた夫を会社に送り出し、陣痛室から移動してきた
病室のベッドに横になる。大きなおなかが苦しい。

まだまだ我慢出来ないほどの痛みではない。
その証拠に横になったら、すぐに眠りに落ちたようだ。
前日、一睡もしなかったから当然。それでも2~3時間で目が覚める。
担当の助産師さんが陣痛の間隔を聞きに来る。
10分間隔であったり、15分、7~8分であったり…お産はまだまだだ。

時刻は正午。

妊娠中から一度も落ちなかった食欲は、陣痛(前駆?)が始まってからも
落ちることを知らず、相変わらず旺盛。
お部屋に届けてもらったお昼ご飯をしっかり食べる。
お産は体力勝負。食べられる時に食べておかないと!(こればっかり)

それからシャワー。
お産をした日はシャワーを禁止されているので、その前に済ませておきたい。
陣痛の痛みがちょっと強くなってきた。でも、痛みが続くのは1分ほど。
その時さえ乗り越えれば、後は嘘のように平常。心も体も。

ザーザーザー、シャワーを浴びる。
陣痛の痛みが訪れる。シャワールームの壁に手をつき、
口から細く息を吐きながら耐える。陣痛の痛みが遠のく。
何事もなかったようにまたザーザーザー。
この繰り返しで、無事にシャワー&ヘアブローを完了した。

窓の外がほのかに暗く感じられる夕方、
この頃になってくると、流石に陣痛の痛みもかなり強くなってきた。
ベッドに横になった状態ではいられない。

ベッドの上に腰掛け、背中を丸め気味に陣痛の痛みに耐える。
ふぅぅぅぅぅぅ…細く長く息を吐く。
眉間にしわを寄せないように気をつけながら、ふぅぅぅぅぅぅぅ…。
うぅ、痛い、痛い。

どこが痛いか?

包み隠さずに語ろう。下腹部でもおなかでもなく…肛門が痛い!
まるでりんごが肛門を出ようとしているような…押される、裂けるような痛みだ。
なぜに肛門が痛くなるかというと、産道は肛門に向かって通っているので、
赤ちゃんが降りてくると、肛門も圧迫されるらしい。

「なるほど…」

お産入院の準備をしている時に見たプレモの特集、
先輩ママたちが持っていったものリストの中に入っていたゴルフボールや
テニスボールの使い道がわかった。

トイレ(小)が近い。
病室の目の前にあるトイレに陣痛の合間を縫って行く。
しかし時に5分間隔で訪れる陣痛に思わずその場で立ち止まってしまう。
既に出産を終え、赤ちゃんを抱いているママたちとすれ違う。
命の重さをしみじみと噛み締めるようにしっかりと抱いている。
その顔は輝くばかりに幸せそうだ。
ほんの数時間、数日前に出産をしたばかりなのに、もう母の顔をしている。
わたしも後に続くのだ!あぁ、い、痛い…洗面台に手を突き陣痛に耐えていると、
「こんにちは」という聞き覚えがある声が。

「あっ…」母親学級で知り合い、仲良くしてもらっているご近所の方だ。
この方は3日前に帝王切開で男の子を出産していた。

「大丈夫ですか?」大丈夫なわけはない。
それでも知っている顔を見た途端、張り詰めていた気持ちが少し穏やかになった。

「だ、大丈夫じゃありませーん。でも、Aさん(仮名)の顔を見たら、
ちょっと元気になりました。あぁー、い、痛いー」

Aさんに状況を一通り説明する。肛門が思い切り痛いことも。
するとAさんが教えてくれた。ゴルフボールは硬過ぎるので、
痛くないところまで痛くなってしまう。テニスボールをベッドの上に置き、
その上にぺたんと座るといいとのこと。

それから、陣痛室にはバランスボールがあるので、それに座ったり、
四つん這いになり、抱きついたりするとかなり楽になると。

Aさんは緊急帝王切開だったので、手術の前にしっかり陣痛を、
かなり長い時間、経験したそうだ。
早速、そのアドバイスを頼りに陣痛室に入れてもらう。
ここは陣痛室、思う存分陣痛と向かい合ってやる。

日中、母が見舞いに来てくれた。
辛そうな顔は見せたくない。余計な心配はさせたくない。

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by sybilization | 2007-09-26 13:00 | report(delivery)
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