*PART2.陣痛室*
陣痛室は二人部屋だ。
幸い、わたしが入った時にはお隣のベッドは空。
気にせずに陣痛と向かい合える。





ベッドに横になると肛門が痛いので、腰掛けた体勢のまま、
陣痛が訪れた時間をノートに書き込む。
間隔は未だに5分だったり、10分だったり…
それでも痛みはかなり強くなっている。

ふぅぅぅぅぅぅぅ…。痛い、痛い、痛い。
あぁぁぁぁぁ…痛い!

夕飯が届けらるも、流石に食欲は全くない。
パックのリンゴジュースだけを飲む。

面会時間ギリギリに夫が来てくれた。
陣痛の痛みで、殆ど会話が出来ない。
痛みに苦しむ姿を見て、夫も辛そうだ。自分は何も出来ないと。

「苦しんでいる姿、お母さんには見せたくないから、
明日はお見舞いに来なくていい、陣痛室に居るから会えないって伝えておいて」
と告げる。

見せたくないというのは本当ではない。
母の顔を見たら、気持ちがすがりついてしまいそうだったから。
弱気になってしまいそうだったから。

消灯時間が過ぎ、辺りが静まり返った頃、
お隣のベッドに同じくお産待ちのひとが来た。
カーテンの隙間からちらっと存在が感じられた。
顔を合わせていないせいか、会話は特になし。

二人とも陣痛の波に合わせ、ふぅぅぅぅぅぅぅ…。ふぅぅぅぅぅぅぅ…。

途中、助産師さんが何度か様子を見に来る。
後から入ってきたお隣さんの方が陣痛の間隔が短いようだ。
わたしはまだまだな予感。
それでも痛みは絶好調。いつまで続くんだろう。
朝が来て、また夜を迎えることになったら、耐えられないだろう…
それでも耐えるしかないんだろうけど。
おなかの赤ちゃんのことは、余り考えられなくなってきた。
元気なのはわかっている。ボコボコ、ドンドコドン!ドカー!

小さめのノート、2ページに渡り、陣痛が訪れた時間を書き留めながら、
結局、一睡もせずに朝を迎えてしまった。

お隣さんもそうだった。
トイレに行く時にカーテンの隙間からちらりと存在を確認。目が合った。
「辛いですね」とわたし。「本当ですね」とお隣さん。

朝食が運ばれてきた。
全く食欲はない。それでも、少しは食べておかないと。
万が一、すぐにお産が始まるようなことになったとしたら、
今のままでは体力がもたなさそうだ。

トレイの上に乗っているいくつかの食べ物の中から、
無理をすればなんとか食べることが出来そうなチョコレートパンと牛乳、
カットオレンジを選び、口に運ぶ。
チョコレートパンを包んであるセロハンをガサゴソ外していると、
お隣さんから声が掛かった。

「甘いものを口にすると少し和みますね」

うんうん、その通り。
お隣さんも同じものをチョイスしたようだ。

朝食の後、おなかにモニター(分娩監視装置)を付ける。
陣痛の間隔はまだまだ……

「いい感じになってきましたね。そろそろ分娩室かも」

これはお隣さんと助産師さんとの会話。

その後、お隣さんは陣痛室を出て行った。
そしてその後、わたしも後に続いた。陣痛室から分娩室へ…ではなく、病室へ。
気分転換と、すぐにお産が始まるひとが陣痛室に来たからだ。

病室へ戻った。
振り出しに戻るだ。

ま、まさか、また今夜、陣痛室で眠れない夜を繰り返すの???
耐えられない。絶望的な気分に陥った。

間隔は開いているが、容赦なく襲ってくる陣痛の痛み。
尿意を催したので、トイレに行く。がしかし、尿意はあるものの、
尿が出ない。うぅーんっ、と力を入れても雫も落ちない。

時刻は午後6時頃。

ナースセンターへ行き、助産師さんににそのことを伝えると、
「じゃ、導尿しましょう」とのこと。
お産の時には珍しいことではないので、心配しなくていいという言葉に一安心。
処置室へ入るように言われ、診察台に乗る。
ストローのような器具を使い導尿をしてもらう。
その間も容赦なく陣痛は襲ってくる。
こんなに痛いのに産まれないなんて…実際に産む時の痛みはどれほどのものなのか…
想像も出来ない。あぁ、痛い、痛い、痛い、痛い!!

それでも導尿をしてもらったら、下腹の違和感が少し薄れ、すっきりしたような感じだ。
まだまだお産までには相当な時間が掛かるのだろうか。助産師さんに聞いてみると、
内診をしてみるとのこと。一応の進み具合だけでも知りたい。
子宮口はどの程度開いているのか?あとどのぐらい陣痛に耐えなければいけないのか。
痛みと疲労で朦朧としている頭でぼんやりと考えている中、助産師さんの言葉が聞こえた。

「全開…」

え?えぇ?

助産師さんが扉から出て行く。「ちょっと待っててね」という言葉を残し。
え?ど、どういうこと?全開って、子宮口のこと?

するとそこへベテランの助産師さんが登場。
(この助産師さんは後にお産の時に担当になってくれた)
再度、内診をする。

「あらー、全開ね。痛みに強い方?素晴らしいは!」とかなんとか…

いえいえ、とんでもない!
「まだまだよ」(内診はせず、陣痛の間隔のみを測られていた)と言われ続けていたから、
その痛みに耐えていたからであって、決して痛みに強い方ではないはず。

そこからは急にバタバタ。
淡いピンクの衣装(着物の合わせのような膝下丈の薄いガウンのような)に着替えて、
分娩室(待ち焦がれていた場所!)へ入るように指示が出る。

いえ、ちょっと待って!
導尿をしてもらう前に夫にお水を買ってきてくれるように頼んであるし、
(この時夫は会社から病院に向かっている途中)
お産の時に身近に置いておきたいグッズがあって、それを病室に取りに行きたいし、
あぁ、あぁ…どうしよう!いろいろと説明するのは面倒だ、
「ちょっとだけ…すみません!」と助産師さんに声を掛けると、転がるように病室へ向かった。
分娩室へ持ち込むものを用意しながら、夫の携帯電話に電話を掛ける。
地下鉄の中に居るのであろうか、留守番電話になっている。

どうしよう…立会い出産ではない夫は、分娩室には入れないはずである。
お水…助産師さんに預けてもらわないと。
実家の母にも電話をする。今から分娩室に入ることと、夫に連絡を取って欲しいことを
伝える。わたしを励ましながらも、母も慌てていた様子だった。

手にした荷物を持ち、分娩室に急いで戻る。
助産師さんに夫がお水を持ってくるので、それを受け取って欲しいと伝え…

それからそれから、
「夕食はどうなるんですか?」

前日の夜から殆ど食事を取っていない。
流石に空腹を感じはじめていた頃だ。
お産はこれから何時間かかるのであろう。
夕食を逃したら、朝食まで食べられない?
体力は持つのであろうか…。

などということを心配しているわたしを気の毒に思ってくれたのであろう。
「夕食、取っておいてあげるから。お産の後に食べられたら食べて」

あぁ、これで一安心。いよいよお産がはじまる!

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by sybilization | 2007-09-26 13:00 | report(delivery)
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